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アミロイドβ

アミロイドβ(アミロイドベータ、英: Amyloid beta、略称: Aβ)は、アルツハイマー病患者の脳に見られるアミロイド斑の主成分として、アルツハイマー病に重大な関与を行う36–43アミノ酸のペプチドである。このペプチドはアミロイド前駆体タンパク質(英語版) (amyloid precursor protein, APP) に由来し、β-セクレターゼとγ-セクレターゼ(英語版)による切断によって産生される。Aβ分子は凝集し、いくつかの形態の柔軟な可溶性のオリゴマーを形成する。現在では、特定の誤ったフォールディング(ミスフォールディング)をしたオリゴマー(「シード」として知られる)が他のAβ分子のミスフォールドを誘導し、プリオンの感染と類似した連鎖反応が引き起こされると考えられている。このオリゴマーは神経細胞に対する毒性がある。アルツハイマー病への関与が示唆される他のタンパク質であるタウタンパク質も同様にプリオン様のミスフォールドオリゴマーを形成し、ミスフォールドしたAβがタウのミスフォールドを誘導するという証拠も存在する。

近年の研究は、APPとそのアミロイド形成能の歴史は古く、初期の後口動物にまで遡ることを示唆している。

<正常な機能>

Aβの正常な機能はあまり解明されていない。いくつかの動物での研究において、Aβの不在は明確な生理学的機能の喪失を引き起こさないことが示されている。一方で、キナーゼの活性化、酸化ストレスからの保護、コレステロールの輸送の調節、転写因子としての機能、抗菌活性(Aβの炎症促進活性と関連している可能性)など、いくつかの活性を有する可能性が発見されている。

グリンパティック系(英語版)は哺乳類の脳から代謝廃棄物、特にAβを除去する。除去の速度は睡眠中に大きく増加する。しかし、アルツハイマー病に関して、グリンパティック系によるAβの除去の重要性は不明である。

<形成>

Aβは、機能未知の膜貫通型糖タンパク質であるAPPの連続的な切断によって形成される。APPはタンパク質分解酵素であるα-セクレターゼ(英語版)、β-セクレターゼ、γ-セクレターゼによって切断されるが、Aβはβ-セクレターゼとγ-セクレターゼの連続的な作用によって生成される。AβペプチドのC末端を作り出すγ-セクレターゼはAPPの膜貫通領域の内部を切断し、30–51アミノ酸長の多数のアイソフォームが生み出される。最も多いアイソフォームはAβ40とAβ42である。より長いAβ42は一般的には小胞体での切断によって生み出され、より短いAβ40はトランスゴルジ網での切断によって生み出される。両者の間ではAβ40の方が多数を占めるが、より線維原性が高くそのため疾患と関連していると考えられているのはAβ42である。アルツハイマー病の早期の発症と関連するAPPの変異は、Aβ42の産生を相対的に増加させることが指摘されており、β-セクレターゼとγ-セクレターゼの活性を、主にAβ40を産生するように調節することがアルツハイマー病の治療法となる可能性が示唆されている。

この治療的アプローチの大きな問題の1つは、β-セクレターゼやγ-セクレターゼのような、アミロイド形成経路以外にも機能的な役割を持つ酵素に干渉しなければならないことである。そのような例としてはγ-セクレターゼ阻害剤によってアプローチした臨床試験が挙げられ、この試験は重度の認知機能障害および皮膚がんの発生率の上昇などの結果に直面した。

Aβはネプリライシン(英語版)など、いくつかのアミロイド分解酵素によって破壊される。

<遺伝学>

APPの常染色体優性変異は遺伝性の家族性アルツハイマー病を引き起こす。この形態のアルツハイマー病は全症例の10%以下であり、大部分はこのような変異を伴わないものである。家族性アルツハイマー病は、タンパク質分解のプロセシングの変化の結果生じていると考えられる。

APPの遺伝子は21番染色体に位置し、したがってダウン症候群の人はアルツハイマー病の発症率が極めて高い。

<構造と毒性>

Aβは一般的に天然変性タンパク質であると考えられている。このことは、Aβが溶液中では特定の三次元フォールドを取るのではなく、一群の複数の構造からなることを意味している。そのため結晶化されず、Aβに関する構造情報はNMRと分子動力学計算に由来している。Aβの26アミノ酸ポリペプチド (Aβ10–35) のNMR由来の初期のモデルは、明らかな二次構造要素が存在しない崩壊したコイル構造を示している。しかし、より最近 (2012) のNMR構造 (Aβ1–40) は明確な二次構造と三次構造を有している。レプリカ交換法による分子動力学計算からは、Aβは実際に異なる複数の構造状態からなることが示唆されており、より近年の研究では、統計的な分析によって非常に多数の異なるコンフォメーションのクラスターが同定されている[67]。NMRに基づくシミュレーションによると、Aβ1–40とAβ1–42も非常に異なるコンフォメーションを取るようであり、Aβ 1–42のC末端はAβ1–40よりも構造的である。

低温・低塩状態では、β構造を持たない五量体の円盤状のオリゴマーを単離することが可能である。対照的に、界面活性剤の存在下で調製された可溶性オリゴマーは、線維のものとは異なる、平行型と逆平行型が混合したβシート構造を相当量含むという特徴があるようである。計算機を用いた研究では、膜に埋め込まれたオリゴマーはβ-ターン-βモチーフ構造であることが示唆されている。

Aβが神経を損傷し細胞死を引き起こす方法として示唆されている機構には、自己凝集の過程における活性酸素種の産生も含まれている。In vitroでは、神経細胞膜でこれが起こると、脂質過酸化反応が引き起こされて4-ヒドロキシノネナール(英語版)と呼ばれる有毒なアルデヒドが産生され、イオン駆動性ATPアーゼ、グルコーストランスポーター、グルタミン酸トランスポーター(英語版)の機能を損傷する。結果として、Aβは神経細胞膜の脱分極、カルシウムの過剰な流入、ミトコンドリアの損傷を促進する。Aβペプチドの凝集はin vitroで膜を破壊する。

<アミロイドβの計測>

イメージング化合物、特にチオフラビン(英語版)の1種であるピッツバーグ化合物B(英語版) (Pittsburgh compound B, 6-OH-BTA-1) は、in vitroおよびin vivoでAβに選択的に結合する。この技術は、PETイメージングと組み合わせることで、アルツハイマー病患者においてアミロイド斑が蓄積した領域のイメージングに利用される。

■死後または組織生検による測定

Aβは免疫染色によって準定量的に測定することが可能であり、またAβが存在する位置も決定することができる。Aβは、脳アミロイド血管症の場合のように主に血管に存在するか、または白質中の老人斑に存在する。

Aβを検出する高感度の手法の1つはELISAであり、Aβを認識する1組の抗体を利用して行う免疫吸着分析である。

原子間力顕微鏡はナノスケールの分子表面を可視化することが可能であり、in vitroでAβの凝集状態を決定するために利用される。

二面偏波式干渉(英語版)は、伸長する線維の分子サイズと濃度を測定することで、凝集の初期段階を計測することができる光学的技術である。これらの凝集過程は、脂質二重層上でも研究を行うことができる。

■血液試料を用いた測定

インピーダンスに基づいて全血試料中のAβレベルを測定する新たな研究の有望性が示されている。抗Aβ抗体とともに調製されたくし型微小電極を用いて、抗体へのAβの結合に伴うインピーダンスの変化を計測する。対照マウスと変異型APP/PS1を持つトランスジェニックマウスに適用した場合、血漿中のAβレベルの差によって両者を区別することが可能であった。

引用:Wikipedia_アミロイドβ
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%CE%B2)
引用日時:2020年3月12日