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タウタンパク質

タウタンパク質(タウタンパクしつ、英: Tau protein)は、微小管を安定化するタンパク質である。ギリシャ文字の τ(タウ)を用いて、τタンパク質と表記されることもある。タウタンパク質は中枢神経系の神経細胞に豊富に存在するが、他の部位では一般的ではない。中枢神経系のアストロサイトやオリゴデンドロサイトでも極めて低レベルで発現している。アルツハイマー病やパーキンソン病のような神経系の病理や認知症は、適切な微小管安定化能を失ったタウタンパク質と関係している。

タウタンパク質は、ヒトでは17番染色体(英語版)に位置するMAPT (microtubule-associated protein tau) と名付けられた単一の遺伝子からの産物であり、選択的スプライシングによって複数のアイソフォームが合成される。

タウタンパク質は微小管の重合に必須の熱安定性タンパク質として1975年に同定され、その後天然変性タンパク質として特徴づけられた。

<機能>
タウタンパク質は、非常に可溶性の高い微小管結合タンパク質(英語版) (microtubule-associated protein, MAP) である。ヒトでは、これらのタンパク質は大部分が神経細胞にみられる。タウの主要な機能の1つは、軸索の微小管の安定性の調節である。タウのノックアウトマウスが脳の発達に異常を示さないことから、他の神経系のMAPも同様の機能を果たしていることが示唆され、おそらくタウの欠損は他のMAPによって補われていると考えられる。タウは主に軸索の遠位端側で活性があり、微小管の安定性と必要時には柔軟性をもたらす。これは、軸索の近位端側で微小管を固定するMAP6(英語版)や、樹状突起で微小管を安定化するMAP2(英語版)と対照的である。微小管安定化機能に加えて、タウはシグナル伝達タンパク質のリクルートや微小管を介した輸送の調節を行っている。

タウはチューブリンと相互作用して微小管を安定化し、チューブリンの微小管への重合を促進する。タウには、アイソフォームの変化とリン酸化という2つの微小管の安定性を制御する2つの方法が存在する。

<遺伝学>
ヒトでタウタンパク質をコードするMAPT遺伝子は17q21に位置し、16のエクソンを含む。ヒトの脳での主要なタウタンパク質は11のエクソンによってコードされている。エクソン2、3、10は選択的スプライシングを受け、6種類のアイソフォームが形成される。ヒトの脳では、352–441アミノ酸の6種類のアイソフォームがファミリーを構成している。タウのアイソフォームは、N末端部分に29アミノ酸の挿入の数が0、1、2個(エクソン2、3)、そしてC末端部分の反復配列が3つもしくは4つ(エクソン10)という違いがある。そのため、中枢神経系で最も長いアイソフォームは4つの反復 (R1、R2、R3、R4) と2つの挿入を有し(全長は441アミノ酸)、最も短いアイソフォームは3つの反復 (R1、R3、R4) を持ち、挿入は存在しない(全長は352アミノ酸)。

MAPT遺伝子にはH1とH2という2つのハプログループが存在し、それぞれは逆向きに存在している。ハプログループH2はヨーロッパの人々またはヨーロッパに祖先をもつ人々にのみ普遍的に存在する。ハプログループH1はアルツハイマー病などの特定の認知症の可能性の増加と関連しているようである。ヨーロッパで双方のハプログループが存在していることは、逆向きのハプロタイプ間の組み換えによって遺伝子の機能的コピーの1つが失われ、先天的欠陥がもたらされる可能性があることを意味している。

<構造>
ヒトの脳組織には6種類のタウのアイソフォームが存在しており、それらは結合ドメインの数によって区別される。3種類のアイソフォームは3つの結合ドメインを持っており、その他は4つの結合ドメインを持っている。結合ドメインはタンパク質のC末端に位置しており、正に帯電している(それによって負に帯電して微小管に結合することができる)。4つの結合ドメインを持つアイソフォームは、3つのものよりも強い微小管安定化効果を持つ。タウはリン酸化タンパク質であり、最も長いアイソフォームにはセリン/スレオニンのリン酸化部位が79か所存在する。正常なタウタンパク質は、これらのうち約30か所がリン酸化されているという報告がある。

タウのリン酸化は、PKN(英語版)を含む、セリン/スレオニンキナーゼによって調節される。PKNが活性化されるとタウをリン酸化し、微小管構造が破壊される。タウのリン酸化は発生段階でも調節されている。例えば、胚の中枢神経系のタウは成体のタウよりも高度にリン酸化されている。6つの全てのアイソフォームのリン酸化度は、ホスファターゼの活性化のために年齢とともに低下する。キナーゼと同様に、ホスファターゼもタウのリン酸化を調節している。例えば、PP2AとPP2Bはともにヒトの脳組織に存在し、396番のセリン残基を脱リン酸化する能力を持つ。これらのホスファターゼのタウへの結合は、タウの微小管への結合に影響を与える。

<タウが関与する機構>
過剰なリン酸化がなされたタウの神経細胞への蓄積は、神経原線維変性 (neurofibrillary degeneration) を引き起こす。タウがある細胞から他の細胞へ伝播する実際の機構については特定されていない。また、タウの放出や毒性など他の機構も未解明である。タウが凝集すると、チューブリンに置き換わってタウの線維化が増大するようになる。伝播の方法に関しては、シナプスの細胞接着タンパク質や神経活動のようにシナプス結合を介した機構や、他のシナプス機構、非シナプス機構など、いくつかの機構が提案されている。タウの凝集の機構は完全には解明されていないが、タウのリン酸化や亜鉛イオンなど、この過程の進行を促進するいくつかの因子が知られている。

■タウの放出
タウの取り込みと放出の過程は、シーディング (seeding) として知られている。タウタンパク質の取り込みは、細胞表面にヘパラン硫酸プロテオグリカンの存在を必要とし、マクロピノサイトーシスによって起こる。一方で、タウの放出は神経活動に依存している。Asaiらによると、タウタンパク質の拡散は、疾患の初期段階で嗅内野 (entorhinal cortex) から海馬領域へ起こる。また、彼らはミクログリアが輸送過程に関与していることを示唆したが、その実際の役割は不明である。

■タウの毒性
タウは細胞内に蓄積することで毒性を示す。この毒性の機構には、PAR-1キナーゼなどの多くの酵素が関与している。この酵素は262番と356番のセリン残基のリン酸化を促進し、他のキナーゼ(GSK-3とCdk5(英語版))を活性化して疾患と関連したリン酸化エピトープを作り出す。毒性の程度は、微小管への結合度などのさまざまな因子の影響を受ける。また、毒性は神経原線維変化(英語版) (neurofibrillary tangle) によっても引き起こされ、細胞死や認知機能の低下がもたられる。

引用:Wikipedia_タウタンパク質
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA)
引用日時:2020年3月12日