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亜鉛

<亜鉛とは>
亜鉛(あえん、英: zinc、羅: zincum)は原子番号30の金属元素。元素記号は Zn。亜鉛族元素の一つ。安定な結晶構造は、六方最密充填構造 (HCP) の金属。必須ミネラル(無機質)16種の一つ。

<名称>
鉛製造工業の副産物として得られていた亜鉛の表面は平滑ではなく、櫛の歯 (Zinken) のような筋状になっていたので、Zinkと呼ばれるようになった。
日本では真鍮を意味する鍮石という言葉は天平年間から記録があり、文禄年間には真鍮という名称に変化している。その当時すなわち16世紀終わり頃、亜鉛は中国名で倭鉛と呼ばれ、ポルトガルではツタンナガ (Tutanaga) といったが、これを日本ではトタン(吐丹)と呼んだ。
亜鉛という言葉は1713年(正徳3年)に『和漢三才図会』に記録されたのが最初であるとされる。

<性質>
■物理的性質
亜鉛は光沢を有し、反磁性を示す青味を帯びた銀白色の金属である。融点は419.5 °C、沸点は907 °Cと金属としては比較的低い。比重は鉄よりも小さく7.14。常温では脆いが、約100 – 150 °Cの範囲のみで展性、延性に富むようになる。210 °Cを超えると、再び脆性を示すようになる。亜鉛は良好な電気伝導体である。

単体金属の格子定数はa = 265.9 pm、c = 493.7 pm (25 °C) で、理想的な六方最密充填構造よりもやや c 軸方向に伸びている。c 軸方向の熱膨張率は a 軸方向の約3.5倍と異方性が強く現れ、線膨張率は a 軸方向(c 軸と垂直)は1.50×10?5 K?1、c 軸方向では5.30×10?5 K?1である。亜鉛を曲げると双晶変化によるスズ鳴きが起こる。

亜鉛を含む合金は多く、銅との合金である真鍮がよく知られている。その他の亜鉛と二元合金を形成する金属としては、アルミニウム、アンチモン、ビスマス、金、鉄、鉛、水銀、銀、スズ、マグネシウム、コバルト、ニッケル、テルル、ナトリウムが知られている。亜鉛とジルコニウムは共に強磁性ではないが、その合金ZrZn2は35 K以下の温度で強磁性を示す。

■化学的性質
亜鉛は周期表の第12族元素に属し、[Ar]3d104s2の電子配置を取る。単体亜鉛は中程度の反応性を持つ金属であり、強還元剤として働く。純粋な金属の表面は湿った空気中で錆びて変色(英語版)しやすく、最終的には空気中の二酸化炭素との反応によって塩基性炭酸亜鉛からなる灰白色の不動態皮膜が形成される。

亜鉛は空気中で燃焼して明るい青緑色の炎色を発しながら酸化亜鉛のフュームとなる。

亜鉛は酸および塩基と容易に反応し、極めて純度の高い亜鉛では室温において酸とのみ徐々に反応する。塩酸や硫酸のような強酸は不動態皮膜を除去することができるため、不動態が除去された金属表面と継続的に反応して水素を発生させる。希硝酸に溶解させた場合は濃度により、亜酸化窒素、窒素、ヒドロキシルアミンあるいはアンモニウムイオンを生成する。

亜鉛の化学は2価の酸化状態が支配的である。2価の酸化状態にあるとき、亜鉛の電子殻は最外殻の4s軌道の電子が失われた状態となり[Ar]3d10の電子配置となる。水溶液中においては主に6配位錯体の[Zn(H2O)6]2+の形をとる。亜鉛と塩化亜鉛の混合物を285度以上で揮発させることで、+1価の酸化状態の亜鉛化合物であるZn2Cl2が形成される。+1価および+2価以外の酸化状態を取る亜鉛化合物の存在は知られておらず、計算化学による解析からは4価の亜鉛化合物は存在し得ないだろうことが示されている。

亜鉛の化学的性質は錯形成能などの面においては銅やニッケルのような第4周期後半の遷移金属元素に類似しているが、d軌道が満たされている電子配置に起因してその化合物は反磁性を示し、またその多くは無色である。亜鉛とマグネシウムのイオン半径はほぼ同じであるため、同種の陰イオンと形成する塩同士では同じ結晶構造を取り、その他のイオン半径に支配される性質においても多くの場合はマグネシウムのそれと同等である。亜鉛は共有結合性の強い結合を形成し、また窒素や硫黄をドナー原子としてより安定な錯体を形成する傾向がある。亜鉛の錯体は主に4配位もしくは6配位を取るが、5配位の錯体も知られている。

ハロゲンとは室温において乾燥状態では反応しにくいが、水分の存在下で室温でも激しく反応し、硫黄とは高温で硫化物をつくる。一方、水素、炭素および窒素とは高温でも直接は反応しない。

<天然における存在>
亜鉛の地殻中の存在比はおよそ75から80 ppmと推定されており、その存在比は全元素中24番目である。土壌濃度は5-770 ppm、平均で65 ppmである。海水中にはわずかに30 ppb、大気中には0.1-4 μg/m3が含まれる。

亜鉛は通常、銅や鉛などの鉱石中でベースメタルに伴って産出する。亜鉛は親銅元素であり、酸化物よりもむしろ硫化物を形成しやすい性質を有している。このような親銅元素鉱石は、初期の地球大気の還元雰囲気下でマグマオーシャンが凝固し地殻となった際に形成されたものと考えられている。硫化亜鉛からなる閃亜鉛鉱は60-62 %と高濃度に亜鉛を含むため、最も多く採掘されている亜鉛鉱物である。他の亜鉛源となる鉱物としては菱亜鉛鉱、異極鉱、ウルツ鉱、水亜鉛土(英語版)などがある。これらの鉱物はウルツ鉱を除き全て、元の硫化亜鉛鉱物の風化によって二次的に形成された鉱物である。

全世界の亜鉛の資源量はおよそ19-28億トンと見られている。大規模な鉱床はオーストラリア、カナダおよびアメリカにあり、埋蔵量が最も多いのはイランである。亜鉛の可採埋蔵量は、アメリカ地質調査所による2015年における推定において亜鉛純分としておよそ2億3000万トンと見積もられている。有史以来2002年までの間におよそ3億4600万トンの亜鉛が採掘され、うち1億900万トンから3億500万トンの亜鉛が今も使用されていると学者によって推定されている。

亜鉛の沸点が同族のカドミウム、水銀と同様に低いため、酸化亜鉛を木炭などで還元して金属を得ようとしても昇華してしまい煙突の先端で空気中の酸素と反応し酸化物に戻る。この場合、鉱石を還元して生成した蒸気を空気を遮断して冷却しなければ単体は得られない。

<人体における亜鉛>
生体では鉄の次に多い必須微量元素で、体重70 kgのヒトに平均2.3 g含まれる。生物学的半減期は280日とする報告がある。100種類を超える酵素の活性に関与し、主に酵素の構造形成および維持に必須である。それらの酵素の生理的役割は、免疫機構の補助、創傷治癒、精子形成、味覚感知、胎発生、小児の成長など多岐にわたる。炭酸脱水酵素が最も重要だと思われる。そのほか、加水分解酵素の活性に関わり、DNA や RNA のリン酸エステルを加水分解によって切断するので細胞分裂に大きく関わる。

人体に入る亜鉛はすべて食品に由来する。人体中では骨に多く、次いで体組織である。最も少ないのが血液であり、7 ppmに過ぎない。体組織中では、眼球、肝臓、筋肉、腎臓、前立腺、脾臓である。体液としては精液に多い。このうち、亜鉛の貯蔵器官は骨と脾臓である。亜鉛の排出経路は消化器が9割を占め、残りが尿と汗である。男性の場合、適度な亜鉛摂取は精子形成の増加および性欲増進の効果が見られる。

なお、必須ミネラル16種の一つであるが、高濃度の亜鉛は人体に有害である。蒸気を吸入すると呼吸器に障害を起こし、全身、特に四肢の痙攣に至る。また工業的に作られた製品は不純物が有害な場合がある。

■所要量
2005年版の「日本人の食事摂取基準」では、推定平均必要量:8 (6) mg/日、推奨量:9 (7) mg/日、上限量:30 (30) mg/日(数値はいずれも成人男性、かっこ内は成人女性)である。ちなみにアメリカでは、男性で11 mg/日、女性で8 mg/日が推奨されている。

■欠乏症
亜鉛の欠乏は、亜鉛含量の少ない食事の摂取、亜鉛と結合し小腸での吸収を妨げる食物繊維の取りすぎ、さらに鉄や銅の過剰摂取などが原因となって起こることがある。亜鉛を最も含む食材は入手の容易さを考慮に入れるとレバーである。食物中にフィチン酸が含まれていると亜鉛の吸収が妨げられる。フィチン酸は穀物や豆類に多い。したがって、赤身の肉が少なく、穀物や豆類の摂取が多い国、例えば、FAO の統計によると、メキシコやペルーなどに欠乏症の素地を満たす国民が多い。

症状は細胞分裂の頻繁な箇所に影響が現れる。
・味蕾の減少による味覚障害
・精子形成の減少
・無月経
・貧血
・皮膚炎
・免疫機能の減弱
・甲状腺機能の減弱
・創傷治癒の遅延

亜鉛欠乏時には、胃腸機能の減衰および免疫機能低下による下痢が見られ、亜鉛を含む栄養素の摂取不良を招き、欠乏がさらに悪化することがある。亜鉛はインスリンの構造維持に必須でもあり、糖代謝にも関与する。さらに、ビタミンAの活性化にも関与するため、亜鉛の欠乏により、ビタミンA欠乏症が現れることがある。また、動物実験レベルでは、亜鉛欠乏により、活動性の低下、記憶や注意力の低下、味覚指向の変化が見られる。医師による治療の際は、亜鉛含有製剤としてポラプレジンクなどが処方される。

■過剰症
亜鉛は過剰に摂取されると、膵液を通して過剰分が排泄される。また毒性も低いとされているため、通常の食生活では亜鉛の過剰症が問題となることはない。しかし、急性中毒や、サプリメントの摂取などにより継続的に過剰摂取した場合には以下のような問題を引き起こす。

■急性亜鉛中毒
胃障害、めまい、吐き気の症状。

■継続的な過剰摂取
・直接的には症状を引き起こさないが、銅や鉄の吸収阻害を起こすため、銅欠乏症や鉄欠乏症を引き起こす。これらの欠乏症が貧血、免疫障害、神経症、下痢、HDL(いわゆる「善玉コレステロール」)の血液中濃度の低下といった諸症状を引き起こす。
・吐き気、嘔吐、食欲不振、胃痙攣、頭痛などの徴候がみられる。長期にわたり亜鉛を過剰摂取すると、銅の減少、免疫の低下、およびHDLコレステロールの減少などの問題が生じる場合がある。

■摂取源
100 g中に含まれる亜鉛の量 (mg) の比較。
・カキ – 7
・レバー – 6
・牛肉 – 4
・小麦 – 4
・チーズ – 3
・納豆 – 3
・エビ – 2
・卵 – 1
・牛乳 – 0.4

■外用薬
酸化亜鉛は、紫外線防止のために日焼け止めに一般的に使われ、規制限度内での使用は安全だと考えられている。ジンクピリチオンはフケや脂漏性皮膚炎に有効で、シャンプーなどに配合される。
皮膚科領域では亜鉛の殺菌と抗炎症作用から多様に研究されているが小規模試験が多く、低価格な亜鉛の有効性を判断するには、適切なランダム化比較試験が必要である。中でもニキビに対しては研究が多く、第一選択肢を置き換える治療法になるとまではいかないが、実際の臨床に反映されていない。

<亜鉛の化合物>
■1価
化合物中の1価の亜鉛イオンは二原子イオン ([Zn2]2+)の形を取るが、極めて不安定であり不均化しやすい。融解状態の塩化亜鉛に金属亜鉛を加え、冷却させることで得られる黄色のガラス状物質中において[Zn2]2+の存在が確認されている。Zn2+

2という1価イオンの形は1価の水銀の二原子イオンであるHg2+

2に類似しており、その二量体構造を反映して反磁性を有している。初めて合成された1価の亜鉛化合物はデカメチルジジンコセン(英語版)((η5-C5Me5)2Zn2)であり、これは初めて合成されたジメタロセンでもある。

■2価
亜鉛は、貴ガス元素を除く全ての非金属元素および半金属元素との間で二元化合物を形成することが知られている。酸化亜鉛は水に難溶な白色粉末であるが、両性酸化物であり酸にも塩基にも溶解する。他の第16族元素との化合物(硫化亜鉛、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛(英語版))は電子材料や光学材料に用いられる。第15族元素との化合物(窒化亜鉛、リン化亜鉛、ヒ化亜鉛(英語版)、アンチモン化亜鉛(英語版))や水素化物(水素化亜鉛(英語版))、炭化物(炭化亜鉛)なども知られている。フッ化亜鉛はイオン性が強く高融点(872度)であるが、他のハロゲン化亜鉛(塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛)は共有結合性がより強いため比較的低融点を示す。

2価の水和イオン Zn2+(aq) は無色であり、多少加水分解して弱酸性を示し、その酸解離定数はpKa = 9.0である。Zn2+を含んだ溶液を弱塩基性にすると、水酸化亜鉛の白色沈殿が生成する。より塩基性が強くなると、この水酸化物は亜鉛酸イオン([Zn(OH)4]2?)として再び溶解する。亜鉛はオキソ酸イオンとも化合物を形成し、それらの例として硝酸亜鉛や硫酸亜鉛、リン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、亜ヒ酸亜鉛、ヒ酸亜鉛などがある。黄色を呈するクロム酸亜鉛は、無色であることが多い2価の亜鉛化合物の中で数少ない有色の化合物である。最も単純な亜鉛の有機酸塩の一例として酢酸亜鉛がある。

亜鉛-炭素結合を持つ有機亜鉛化合物として、合成化学において試薬として用いられるジエチル亜鉛がある。ジエチル亜鉛は1848年に報告された初めての有機亜鉛化合物であり、亜鉛とヨウ化エチルの反応によって合成される。それはまた金属-炭素間にσ結合を有する化合物としても初のものであった。

引用:Wikipedia_亜鉛
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%9C%E9%89%9B)
引用日時:2020年1月21日